惚れちまったものはショーがない。


「お前も知ってるあのマコト・ヤマモトな、あいつはモロにヤバイ。」

「知らぬは本人だけってやつだ。」

クライバーンとの会話を適当に誤魔化して立ち去って来たタイラーだったが、先程のクライバーンの言葉が頭にちらついてはなれない。
ユリコさんにその会話を知られた上、さらに追い打ち的に『不潔よ』という言葉をもらってしまった・・・というのもショックだったのだが、実はそれ以上に『ヤマモトがモロにヤバイ』というクライバーンの言葉に動揺している自分にショックを受けていたのだ。

(ええい!!自分、自分!落ち着け!!何でこんな言葉に同様してんだよ〜っっ!!これじゃぁ、海兵隊のそっちの人と同じじゃないかぁ〜〜〜っっ!!)

(確かにあの人、可愛い何て思っちゃったり何かしたけど、実際本人に言ったりしてからかったりしたけど、そんな意味だった訳じゃないハズだったのに〜〜っっ!!)

・・・“ハズ”どころか、おもいっきりハマっている。

(大体、このモヤモヤっていうか、この沸々と沸き上がる怒りは何だって言うんだ?!
こんな・・・・『ヤマモトくんが可愛いっていう事に気付いていたのが自分だけではなかった。』ていう事がこんなに悔しいと思うなんて・・・・。)

そこで、ガクリと項垂れるタイラー。

(と、とにかく、ヤマモトくんのことをよく思い出してみよう・・・。きっと以前可愛い・・何て言って、からかった相手がそういう対象でモテる何て聞いちゃったから、動揺しているだけに違いない。うん。きっとそうだ。)

既に思い込みの段階に入っているタイラー・・。
なかなか涙を誘う。

(まずは、顔だ。
・・・まぁ、ハンサムだね。ちょっと、眉が濃いような気がしないでもないけど、そこがチャームポイントだといえるし・・・。)

同性の、しかも『男』に対して『チャームポイント』などと言ってしまえる当たり、まったくもってどうかしているのだが、その事実に気付いていないタイラー。
彼の壊れた思考はまだまだ続いていた。

(で、頭が堅い。とにかく、堅い。
融通が死ぬほど利かない。そんなんじゃ、いつか頭が禿げるぞって言ってやりたいくらい、堅い。
・・・だけど、そんなだからちょっと、ほんのちょっと揚げ足をとってやるだけで、すぐ思うように転がりこんでくるんだよなぁ。うん、あれは実に快感だ。
それでもって、真っ赤になって狼狽えて、最初の取り澄ました顔が一瞬にして崩れるんだよ。
あれは、可愛いと思うんだけどなぁ・・・。
絶対あの顔みたらみんな可愛いって思うって!!
・・・思わないのかな・・・。
いや、むしろヤマモトくんのあんな表情、みんなは見たことがないのかも。)

何とも言えぬ優越感がタイラーの中に広がった。
だがしかし、次の思考で一瞬にしてどん底に引き落とされる。

(いや、例の海兵隊の奴らはヤマモトくんのそういう可愛いところをいっぱい見たのかもしれない・・・。
ていうか、ひょっとしたらボクが見たことない様な表情とか見てるのかも・・・。

ボクより長くいるんだから当然だ。
クソ!!何か悔しいぞ!!!)

・・・−−−論点が激しくズレまくっている。
ていうか、さっきの怒りの理由にあっさり到達している。
しかし、その事実に全く気付かないタイラー・・。
すでに彼の思考は、破滅的に『その道』を、まっしぐらだった・・・。

「貴様、タイラー!こんな所で何してる?!」

思考の波に捉えられていたタイラーに、突然後ろから声が掛かる。
タイラーは、その声にゆっくりと振り返る。
そこには予想したとおりの人物が、不機嫌そうな表情で、腕を組みながら立っていた。
「あ、ヤマモトくん・・・。」
「ヤマモト“くん”じゃない!ヤマモト“少佐”だ!!
だいたい貴様は、馴れ馴れしすぎだ!」

タイラーの呟きに直ぐ様反応して、怒りの声を上げる。
その反応が、相手を喜ばせているという事も知らずに・・・。

「ああ、はいはい。ヤマモト少佐。」
「はいはい、じゃない!“はい”は一度でいい。
そんな基本的な事も、貴様は出来ないのか!!」
「え〜〜。」
「『え〜〜。』じゃない!子供か、貴様は?!』

ひとり激怒するヤマモト。タイラーを目の前にした彼に、威厳もへったくれもなかった。
単なる子供の“売り言葉に買い言葉”レベルになっている。

「まったく、あんまり細かいことは気にするなよ。」
「貴様は、気にしろ!」
「でもさぁ、あんまり細かいこと気にしてると、すぐに禿げるよ?」
「大きなお世話だっっ!!!
大体貴様は軍人としての自覚がなさ過ぎだ!!
もっと上下関係の礼儀を、しっかり頭に叩き込んでおけ!」
「え〜、でもさぁ・・・。」
「デモも、クソもない!」

さらに激怒するヤマモト、対するタイラーは、かなりこの会話を楽しんでいる様子だ。
何とも不毛な会話が続く。

「でもさぁ、ヤマモト少佐。
君こそ、こんな所で大声出して騒いでていいの?」
「・・・・・・・?!」

ハッと我に返るヤマモト。
辺りを見回すとご丁寧にギャラリーまでついている。
みるみると真っ赤に染まっていくヤマモトの顔。
そしてそんなヤマモトに、更に追い打ち的なタイラーの言葉が加わった。

「しかも、ここってミフネ中将の執務室の“超”近くだったりするよね。」
「・・・・・・。」

そう、タイラーはボーッ、と歩いている内にこんな所まで来ていたのだ。
今度はヤマモトの顔がみるみると真っ青になっていく。
どうしたら良いのか分からないのか、無言のまま俯いてしまった。

(ホ〜ント、可愛いよなぁ〜。
でも、ちょっと苛めすぎちゃったかなぁ。
それに、こんな可愛いヤマモトくんの姿をあんまりみんなの前に晒しておくのはもったいない気がするし・・・。
この辺で、打ち切るとしましょうか。)

悠長にもそんな事を考えているタイラー・・・。
つうか、既に彼の思考は完全に腐りきっていた。

「はい!と、落ちが付きました所で、タイちゃん&ヤマちゃんの掛け合い漫才、これにてお開き!!それでは皆さんごきげんよ〜〜っっ!!」

そう締めくくるなりタイラーは、顔を真っ青になったまますっかり固まってしまっているヤマモトを、引きずるようにしてギャラリーの中から連れ出した。

「さてと、そろそろこの辺で良いかな?」

建物から出て人気のない所までヤマモトを連れてくると、掴んでいた手を放す。
すると、ようやく我に返ったヤマモトが、バツの悪そうな顔で口を開く。

「と、とにかく、助かった。礼を言う。」
「いえいえ、どういたしまして。」

ニンマリとした顔でタイラーが答える。

(こういう所はホント素直なんだよなぁ★)

すかさず腐ったことを考えている。

「何をニヤニヤしている。」

そんなタイラーの様子を、自分が馬鹿にされていると勘違いしたヤマモトが不機嫌そうに言った。

「いや、別にただ、
何かご褒美をくれないかなぁ〜、と。」
「何?ご褒美だと?!調子に乗るな!
何だってこれしきの事で貴様に褒美などやらなけりゃならん?!!」
「え〜、これしきって事はないでしょう?
だって、あのまま放っておいたら、間違いなくミフネ中将があの騒ぎを目の当たりにしちゃったんじゃないの?
それか、ミフネ中将自身が来なかったにしても、あれだけ騒いでればミフネ中将の秘書であるユリコさん・・・」
「スター少尉!!」

すかさず突っ込むヤマモト。
こういう事だけはやたら早い。

「あ〜、もう、ホント細かいね・・・君。」
「ふん!」
「で、そのスター少尉があの現場を目撃した揚げ句、その見たまんまをミフネ中将に報告しちゃったりするんじゃないのかなぁ、と思うんだけど?ま、こっちの方が確率的に高い上に、一番最悪な事態なんじゃないかと思ったりなんかするんだけど、お互いに。
ま、でもボクの場合は元々こういう性格だから別にあのままでも良かったんだけど、君の場合、完全に再起不能だよね?2人への好感度。」
「・・・・・っっ」

正にぐうの音もでない、ヤマモト。
だが、
対するタイラーは“勝った”とばかりに心の中でピースをしている。

「だからぁ〜、そんなピンチな所を助けてあげたんだから、ちょ〜っと!ぐらい、
ご褒美くれたってバチは当たらないんじゃないの?」

恩着せがましく、追い打ちを掛けるタイラー。
だが、ヤマモトももっと冷静に考えていれば気付いていたであろう、“こんな不足な事態にまで陥ってしまったのは、タイラーのせい。”だという事に・・・。
何しろタイラーは、わざとヤマモトが激怒するように仕向けて話ていたのだから・・・。
ホント、まったくもってタチが悪い。
しかし、動揺の余りその事実に全く気付かないヤマモト。
こちらもホント、まったくもってしょうもない奴である。それが彼の長所であり、短所でもある訳だが、こんな奴が少佐で良いのだろうか?と思わないでもない。
とりあえず言えることは、ヤマモトがタイラーに口で勝とうなど、アリが像に勝とうと言うぐらい難しい事だった。チーン。(合掌)

「・・・・・・・。」
「大丈夫だよ。別にんな無理難題何て言わないから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・分かった。」

長〜い沈黙の後、不承不承ながら頷くヤマモト。
タイラーに借りを残しておきたくない、という気持ちが彼を頷かせたに違いない。

「それで、貴様は何が欲しいのだ?借金があるそうだが、やはり金か?」
「う〜ん、確かにお金に困ってるけど、お金じゃないんだよね〜。」
「では、何だというのだ?」
ヤマモトが焦れたように聞くと、タイラーはニヤリと内心ほくそ笑んだ。
「それはねぇ〜。」
「だから何だ?!!」
勿体つけるようにタイラーが言い、手招きすると、
苛立ちを隠せないヤマモトは素直にそれに従い身を寄せた。

その瞬間、タイラーはヤマモトの顔をガシッと掴むとそのまま己の顔を近づけた。
そして・・・・

ムッチュ〜〜〜〜〜っっ・・★★

余りの出来事に脳がうまくついていかないヤマモトを余所に、じっくりその口唇を堪能するタイラー。しかも、バッチリ舌まで入れているあたり、流石抜け目がない。
そして、時間にして約5分、満足したタイラーは漸くヤマモトを解放したのだった。

「はい、ごちそうさま★」
嬉しそうに言いつつ、ヤマモトから手を放すタイラー。
すると、ヤマモトの身体はカクンと頽れた。
「ありゃりゃ、大丈夫?ヤマモト君。」
腰砕けなヤマモトに慌てて手を差し出すタイラー。
「ヤマモト大佐!!」
ヤマモトはその手を払い除けながらも、すかさず訂正を入れる。

−−−−う〜ん。手強い・・・。

内心、こんな状態ですら訂正を忘れないヤマモトに、呆れ半分、感心しながらもそれはおくびに出さず、タイラーはその美形な顔に、それはそれは綺麗な微笑を浮かべたのだった。

「−−−−っっ!!
キ・・キサマよくも自分のファー・・・っっ!!」
「あ、ラッキ〜★
やっぱりファーストキスだったんだ★★」
「〜〜〜〜っっ」

言葉を慌てて飲み込んだヤマモトだったが、既に遅く、耳敏いタイラーはすぐに言葉を返す。
ヤマモトは一瞬でもタイラーの笑顔に見惚れてしまい、うっかり発してはならない事実を口にしてしまった自分を酷く呪ったが、既に後の祭りである。

「それじゃぁ、お礼も貰ったことだし、そろそろ帰らなくちゃね★
取り敢えずそう言う訳だから、今後とも“いろいろ”と、ヨロシクね★★」
そう言うと、タイラーは軽い足取りで去って行った。




(・・・“いろいろ”って何だ?!!!)


後には、ファーストキスを許してしまったという自責と、これから起こるであろう最悪を思い、一人打ちひしがれるヤマモトの姿が残ったのであった…。





end

・・・・・・・・・。
何かいてるんだ?私…。
勢いだけで書き殴ってしまっているのがバレバレって感じですね。
いや、でも、改訂版で出た小説のタイラーに出てくるヤマモトは
メチャクチャ可愛いと思うんですけど、私…。
若いし。(笑)
これは、小説の初期の方の話です。
後の方では、ヤマモトの方がすっかりタイラーにベタ惚れ状態ですけどね。(笑)
こんな馬鹿話に長々とお付き合い下さり、有り難うございました!!



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